ASAHIKAWA WBC(up2016.03)

所属

旭川医科大学 

脳機能医工学研究センター

 

 

氏名

Kaoru Takakusaki

教授 高草木 薫

研究テーマ

大脳基底核の機能;パーキンソン病との関連について

研究内容(概要)

パーキンソン病が中脳ドーパミンニューロンの変性により誘発されることが解明されたのは1960年代である。急速な神経科学や分子生物学の研究成果の蓄積により,大脳基底核の機能と基底核疾患のメカニズムが次第に解明されてきた。研究成果の多くは動物実験から得られたものであるが,動物の「身体と脳の進化」を考慮すると,基礎研究の成績は「ヒト」を理解する上で非常に有用である。この前提に立脚し,臨床成績と動物実験の成績をモザイク状に組み合わせることにより,大脳基底核の機能と基底核疾患のメカニズムについて様々なことが明らかとなってきた。

関連キーワード

大脳基底核,歩行,睡眠,高次脳機能,運動制御,パーキンソン病

主な研究内容もしくは代表的な過去の事例研究

  

1.脳の進化と運動機能(図1A参照)

   運動機能は,爬虫類などの腹這い運動〜イヌやネコの四足歩行〜ヒトの二足歩行という過程で進化してきた。この進化を支えているのが抗重力筋と姿勢制御の仕組みである。同様の特徴はヒトの生後発達でも認められる。ヒトは生後1年数か月の間に二足歩行を獲得する。そのプロセスは頸部〜体幹〜下肢の伸展,体重の支持,そして姿勢制御に必要な神経機構の獲得である。脳の進化に伴い,大脳基底核(以下,基底核)は歩行や姿勢などの生得的な運動機能に関与する脳幹に加えて,大脳辺縁系,次いで大脳(新)皮質の活動を調節する様になり,歩行や姿勢のみならず,情動(心の動き)や繊細な運動機能,そして高次脳機能の制御にも関与する様になった。

2.基底核の機能と基底核疾患のメカニズム(図1B参照)

ヒトの行動は,認知情報の評価・情動や感情の表出・意欲〜意思の発動・行動計画〜運動プログラム・運動準備・運動遂行というプロセスで発現する。基底核は大脳皮質-基底核ループと基底核から脳幹への投射系を介して,これらの機能に関与する。したがって,基底核疾患では,運動障害のみならず,精神障害(意欲や情動の障害)や高次脳機能障害(認知・学習・計画性・社会性の障害),そして,睡眠障害などが誘発される。基底核疾患の運動障害は,筋緊張亢進・運動減少症(パーキンソン病)と筋緊張低下・運動増加症(ハンチントン舞踏病やバリスムス)に大別される。中でもパーキンソン病はアルツハイマー病に次いで有病率の高い(約200/10万人),脳の変性疾患である。

図1 動物の進化・発達と大脳基底核の機能

2-1)パーキンソン病;パーキンソン病では,中脳に存在する黒質緻密部のドーパミンニューロンが変性・脱落する。これにより基底核から大脳皮質や大脳辺縁系,そして,脳幹の神経細胞に対する抑制作用が増加するので,様々な運動機能障害(安静時振戦,無動,筋固縮,姿勢反射障害)や,認知,学習などの高次脳機能の障害,さらに精神活動の低下(うつ状態,情動表出の減少)や睡眠障害(不眠,レム睡眠時異常行動症候群)などが誘発される。

2-2) パーキンソン病の治療(ドーパミン補充療法・定位脳手術等);パーキンソン病の治療で重要なものに,ドーパミンの補充療法と定位脳手術がある。前者は枯渇したドーパミンを補うことで基底核の機能を回復させることが主眼である。後者は,基底核内の異常活動を遮断することにより,過剰な基底核からの出力を低減させるのが目的である。近年,脳深部刺激法が盛んに施行されている。双方の治療法の進歩により,振戦や歩行障害,筋固縮(筋緊張の亢進)などの運動障害や睡眠障害も軽減される様になった。現在では,遺伝子治療や神経幹細胞を用いたドーパミンニューロンの保護や再生を視野に入れた新たな治療手法も考案されている。現在の治療法とも合わせて,これらの治療法の進歩により,個々の患者に適したオーダーメード治療も可能になる日が来るのを期待したい。

 

連絡先 総務部研究支援課社会連携係

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Fax0166-66-0025

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URL: http://www.asahikawa-med.ac.jp/

相談可能な分野・講演可能なテーマ

・大脳基底核の機能;パーキンソン病との関連

・脳の高次機能と運動の仕組み

・歩行と睡眠